ミリカ・ルーン

時折ふと思い起こされる、負の感情、忌み嫌っているこの物理世界においての私の名を呼ぶ声、恩に報いることができずに離れてしまった人たちの顔、忘れたかった理不尽な記憶と怒り。トラウマの一言で片づけてきたものだった。だがある日気付いた、違う、これは私から出でしものなんかじゃないと。まだ知らない何かが私の中に潜んでいるんじゃないかと。

 

ふうの助力のもとに自らの影を介して自身の内面へと潜り、彷徨い探し続けた果て、しかして“ソレ”はそこにいた。その身を闇に埋め、今にも泣きそうな顔をして必死に何かに耐えているようにも見えた。

 

“ソレ”の存在は予想通りであり予想外でもあった。確かに負の出処は“ソレ”で間違いなかった。しかしそれらは決して“ソレ”の所為などではなく、寧ろ“ソレ”はずっと私を守ってくれていたのだ。

 

“ソレ”の正体は…別の時間軸の私だった。悪意に負けて心を折られ、人であることを捨て、カルマの負債を無視してまで世界に呪いを振りまき続けた、最悪解の一つへ進んだ私の成れの果てだった。償いと、レトリーバルの為に本来私が受けるはずだった負の念を身代わりとなって全て一人で抱え込もうとしていたのだ。己を追い詰めたそれから私を守るために。もう二度と自分が生み出されることが無いように。それでも抑えきれなくなってしまったものが零れて私の心に浮かんできてしまっただけだったのだ。

 

私は“ソレ”に、いや、“彼女”に名と姿を与えた。正確には戻してあげた、という方が正しいのかもしれない。そして、これからも共に居ることを許した。はっきり言って良くない存在ではあるだろうが、だからと言って拒絶しては彼女も私も救われない事が解っていたから。

 

今は不要な想いや情報を捨てるために設けていた底なしの奈落を任せ、本当に捨てていいものかどうか迷ったときに判断を仰いでいる。役職を与えたかったというのもあるが彼女が負の念を溜め込まないよう吐き出せる場所が必要であると思った為でもある。

 

その生い立ち故に能力は呪いの一点特化。しかしどうやら相当強烈かつ質の悪いもので、その上加減も出来ないらしく、余程の場合でなければ先ず間違いなく自身にカルマが課せられるため、彼女は決して力を使おうとしない。どれ程のものなのかタルネがカルマの動きを換算したところ、脂汗を滲ませ硬直していたので恐らく相当にあんまりなものだったのだろう。

 

そんな彼女ではあるが、私は勿論他のメンバーからもちゃんと受け入れて貰えている。のだが、彼女自身が負い目を感じているためまだまだ円満とは言い難い。いつかちゃんと打ち解けてくれることを願うばかりである。